日本人に生まれて数十年。3日と空けず我が家の食卓に必ず上がるもの、それは「みそ汁」。
おいしいよね、おみそ汁。季節の野菜を入れたり、みその種類を変えたりして。小学校の国語の先生が言っていた言葉が、あれから随分時が経った今でも頭から離れない。
「おみそ汁は、おみおつけとも言うんだよ。【御御御付け】には、大切なものにつける【御】が3つもついていて、日本人の生活には、昔からおみそ汁が欠かせないの。」
大人になってから、これには諸説あるらしいということを知ったけれど、わたしは御を3つつけちゃった説をいまだに支持している。 みそはもともと、寺院や貴族階級だけが手に入れることができるぜいたく品で、平安時代には高級官僚のお給料として支給されたり、薬として利用されていた時期もあったそう。 「今月もお疲れ。これが今月分のお給ミソだよ」って言ったかは定かではないけれど、渡されるみその量ってどのくらいだったんだろう。小袋?樽?そのみそで、どんな食卓が用意されたのかな。
前置きが長くなったけれど、とにかくみそは日本人の食文化に長く深く根付いていて、かつては「自家製」が定番だった。その習慣から、自画自賛することを指す【手前味噌】という言葉が生まれたのは、あまりに有名な話。
先日行われた「みそ仕込みワークショップ」。
つまり、おいしいおいしい手前味噌をみんなで仕込もうじゃないか、という集まり。会場は静岡県駿東郡清水町の中村屋麹店。
124年続く老舗麹屋を継いだ5代目の中村さんご夫婦がお手伝いをしてくれた。
あとあと説明するけれど、大変な部分は、店主さんご夫婦が全部お膳立てしてくれてあったから、結論から言うと「ただただ楽しくて簡単だった」。
このご夫妻の経歴がこれまたおもしろいのだけれど、その話はまた別の機会に改めて。
今回はグループでのワークショップということで、ひとつひとつの工程を
全員で一緒に進めていった。たくさん作る場合この方が効率がよいので、
昔の農家さんはお手伝いの方たちとこういうやり方で仕込んだのだという。
手をきれいに洗ったらまずは生麹(なまこうじ)を手でこなす。
こなすっていうのは、粉々にすること。かたまりの麹が、少しの力でほろほろとほどける感覚は、なんとも心地がいい。
次に、こなした麹に塩を豪快に混ぜる。
次に大豆。この大豆がポイント。
まさにミソ。みそのミソ。(しつこいでしょう。大方の予想通り、そう言いたかっただけです。)
本来なら大豆は、よく洗い→水に浸し→茹でて柔らかくする という工程がある。18時間水に浸し、4時間半ほぼつきっきりで灰汁を取りながら火加減を見ながら茹で、2時間蒸らし、1時間水切りをする。
今回はここを、中村さんがまるっと請け負ってくれた。茹でる工程は、業務用のふかし器でふかして、熱すぎても冷えすぎても潰しにくくなってしまうので、ワークショップの開始時間にちょうど良い頃合いになるように、大豆の状態をもって来てくれていた。
\よっ!5代目/
敷き布の上につやつやの大豆を広げると、蒸気が立った。
指先でつまむとすんなりと豆が潰れる。これが、ちょうどいい印。
参加者同士交代をしながら、上へ下へと手早く混ぜたら、次はつぶす作業。
ここで登場したのが、ミンサー。ビニール袋に入れて、一人づつ手や足でコツコツ潰すこともできるけれど、今回はこの機械に上部から一気に流し込んで、潰す方法だった。
ミンサーの下でバケツなどの入れ物を構えているとニュルニュルと、ペースト状になったみそが出てくる。今回多くの参加者は8キロを仕込んでいた。それでも「足りるかなあ」という呟きが聞こえてきたくらい。
出て来たみそペーストを、上から押し付けるように詰めていき空気を抜く。もしも空気が残っているとカビの原因になることがあるという。
樽詰めの順番を待つ間、中村さんが発酵食品のおやつとお茶を用意してくださったので、ワイワイと談笑タイム。
黒麹の甘酒。3年が経過した豆味噌。玄米麹の甘酒。そしてそれらと絶妙なコンビネーションのクリームチーズをつけてクラッカーをいただいた。地もののきゅうりをみそに付けるという間違いない食べ方もした。これは案の定、間違いなく最高だった。
その合間にも参加者のおしゃべりは続く。
とにかく女性は、よくしゃべるのだ。自分のことだけでなく家族のことや地域のこと、仕事のことや子供のこと。休むことなく話し笑い、短時間にギュッと濃縮した情報の交換会となった。
こうやって昔から女性は、地域の仲間と支え合って、危険を回避したり喜びを共有したりして来たのかな。旬のものを愛で、味わい、料理のスキルを上げる。 もちろん男性にもできないことはないと思うけれど、このバランス感覚とマルチタスクの処理能力は、やっぱり女性の優れた能力だとおもう。手前味噌だけど。はい。おあとがよろしいようで。
こうして瓶や樽に詰めたら、清潔なシートを上に被せ、塩を重しとしてさらさらと入れる。石ではなく塩をつかうのは、重さを加えるのと同時に湿気を吸い取る役目もするから。ここにもまた、よく考えられた生活の知恵の片鱗が残っていた。
そうして作業の全工程が終了。2~3ヶ月放っておくとおいしいみそになる。
参加者はみな、愛しい子供に対するようにみそを抱え、それぞれの場所に帰っていった。その顔はみなとても清々しかった。
中村屋麹店さんでのみそ仕込みワークショップの全容を見て、
「わたしも何かに参加してみたい。人と繋がってみたい」と思った方は、
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