丸いみかんを作る、とがった農家。
大松農園5代目 関野拓郎さん みかんの産地として有名な沼津市西浦地区で代々みかん栽培を続ける「大松農園」。 ライターの増田都佳佐が、大松農園5代目 関野拓郎さんをご紹介します。 私と関野さんは奥駿河(伊豆半島のつけねらへん)で共にまちづくりに取り組むOKUSURUGA BOARDの仲間。 以降は、敢えていつものように「拓郎さん」と呼びたいと思います。 出会いは2017年、拓郎さんが就農して1年が経った頃にゲストスピーカーとして登壇した、あるまちづくりのイベントがきっかけです。 登壇した彼のいで立ちは、「本当にみかん農家?」と思うほどスタイリッシュで、強烈なインパクトを残したのです。就農するまで約10年間、関西のアパレル会社に勤めていたとその時に聞いて、なるほどと納得したのがファーストコンタクト。 家と学校を行き来して過ごす高校生の時には、もちろん自動車免許もないですから行動範囲も狭く、刺激を求めてとにかく西浦から飛び出したかったんだそうです。 3人兄弟の次男で、特に家業を継ぐことも考えていなかったんだとか。 結婚し子どもが生まれたことをきっかけに、「手の届くところに自然がある生活がしたい」と2016年に地元西浦へUターン。

18歳で離れた地元、大人になった拓郎さんの目には、あの頃と違う地元沼津の姿が写りました。 ・富士山はもちろんのこと、景色がきれい ・食べ物、特に魚がおいしい ・静岡県東部にも個性的なお店や活動をしている人がいるんだ 一度地元を離れ、そして社会に出て視野が広がったことで、沼津の魅力に改めて気づくことができたといいます。 そして、アパレル会社勤務で培った小売りに関するノウハウを活かして商売をしたい、そんな思いがあって「地元でみかん作りをしておもしろいことをやってみよう」と、ご両親のみかん栽培を手伝い始めたのです。

大松農園のみかん畑は約9,000坪。1年を通じて8種類の温州(うんしゅう)みかんを栽培、年間約60トンを出荷するとのこと。 春の開墾、植樹、剪定から冬の出荷作業まで、みかん農家の1年は息つく暇もないほど濃密です。

就農して1年が経った頃、拓郎さんが自らの今後の課題についてこう話しています。
- 経営者として成功する
- 収益性の高い農業を実現・実行する
- みかん農業のイメージアップ・西浦みかんの認知度アップを図る
- みかん農家をかっこよくしたい
- 大松農園のみかんを食べて感動してもらいたい

そして2021年、就農6年目の拓郎さんに聞きました。
- 自分で課した課題、数年経ってどんな状況ですか?
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今、まさに課題解決に向けて一歩ずつ歩んでいるところですね。
作業の機械化や改植、開墾による生産量の拡大は形になってきた手応えがあります。
父親が1人でやってきたみかん栽培に僕が加わることで、これまでの作業を見直す機会となりました。2人で考えた栽培方法を新たに取り入れることで品質改良、さらにロスを減らすことにも繋がっています。SNSという新たな販路もでき、リピート買いしてくれるお客様がいたり、大松農園のみかんを使った商品が誕生したりと、思いがけない広がりに驚きさえ感じています。
- 就農して5年、仕事にも慣れ自信もついてきたのでは。今の率直な思いは?
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みかん栽培のおもしろさを実感しています。
半年間、手間暇かけて作ったみかんができた時には達成感がありますね。
そして、自分の作ったみかんが売れる=見える仕事の成果として、やりがいを感じます。
- 経験と知識が身に着いた今、5年後、10年後の自分やみかん栽培を想像できますか?
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僕自身の産地との関わり方が変わり、見えてくるものがありますね。
みかんの産地西浦のこれからに対して危機感を強く感じています。
僕自身も年齢を重ねていくので、作業の効率化を実現していきたいと考えています。
- 今、新たに見えてきたことはありますか?
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栽培から販売までを自分たちで行う、第6次産業について考えていきたいと思っています。「みかん+α」で、大松農園の商品の価値を上げてを販売することで、廃棄を減らすことができ、それは課題解決に繋がると思うんです。
その「+α」は、「サービス」や「情報」でもいいんじゃないかと考えていて、積極的にメディアに出たり、SNSで大松農園、産地について自ら発信したりするよう意識しています。
よく見た目で「農家らしくないね」って言われたりするんですけど、それを僕は誉め言葉としてプラスに受け止めているんです。たくさんあるみかんの中で、大松農園のみかんが選ばれるためにはやはり目立たないと!『丸いみかんを作るとがった農家』って、いいじゃないですか。自分たちのブランドづくりをすることも、僕の役割の1つだと思っています。
- 「ひととき百貨店」のお客様へ
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沼津市にお住まいでも、「西浦みかん」のこと、「寿太郎みかん」のことを知らない方もいらっしゃいますが、今は知らなくてもそれで良いと僕は思っています。5年後、10年後に、初めて知ってくださる方もいらっしゃるでしょう。「もっと前から知りたかった!」と、それまで知らなかったことを後悔してしまうくらい品質の良いみかんを大松農園はこれからも作っていきます。未来のお客様に、見つけてもらう、食べてもらう工夫を続けていきますので、出会えてよかったを紡ぐ「ひととき百貨店」を通じて大松農園のみかんと出会い、ぜひ食べていただけたら嬉しいです。
「全く違う業界にいた僕だからできることがあると思う」 みかん産地「西浦」、「大松農園」の将来を担う立場。 重責を感じることももちろんあるでしょう。 しかし、それをも跳ね除けるパワーで拓郎さんは常におもしろいことを探しています。 そんな「大松農園」と「ひととき百貨店」が出会いました。 これから間違いなくわくわくすることが起こります。 ひととき百貨店のお客様、どうぞ季節の移ろいをたのしみながらその時が訪れるのをもうしばらくお待ちください。 今年はぜひ、『出会えてよかった』と心満たされる、大松農園こだわりのみかんを味わっていただきたいと思います。

大松農園では9月頃から順次、8種類の温州みかんの収穫・出荷が始まります。
沼津市の特産品でもある「寿太郎みかん」はもちろんのこと、大松農園のみかんを初めて食べる方にオススメしたいのは【由良(ゆら)】。
「由良」は果汁たっぷりで、極早生(ごくわせ)みかんの中でも甘みと爽やかな酸味のある味の濃いみかんです。濃厚な味わいに仕上げるため、大松農園では敢えて小ぶりなサイズになるよう栽培しています。